花崗岩が美しい空木岳、南駒ケ岳の山旅
中央アルプスと言えば、何と言ってもまず木曽駒ヶ岳を思い浮かべる。以前駒ケ岳に登った時から宝剣岳以南に続く雄大な尾根の向こうに聳える空木岳に何時か登って見たいと思っていた。この思いを度々S脇君とも話し合っている内に遂に登る機会が訪れた。
色々なコースが考えられたが、アプローチし易い池山林道の登山口から空木岳に登頂後、山頂直下の駒峰ヒュッテに宿泊し翌日南駒ケ岳を往復して往路を下る事になった。
幸い天気にも恵まれて中央アルプスの名峰群は勿論、御嶽山や南・北アルプスなど素晴らしい展望が得られた。特に滞在した駒峰ヒュッテは抜群のロケーションにあって、併設されたベランダから眺めた朝夕のドラマチックとも言える景色は何時までも忘れられないほど心に残る絶景だった。
又、駒峰ヒュッテでは駒ケ岳方面からの長大な尾根を縦走してきた一人の若い女性との出会いがあった。彼女は今朝千畳敷を出発し、極楽平、島田娘ノ頭を経て濁沢大峰、檜尾岳、熊沢岳、東川岳に登り最後に木曽殿山荘からの急登をこなして空木岳に登頂後にヒュッテに到着した強者だった。
女性一人でこの過酷なルートを何故選んだのか聞いてみたところ、出身が島田なので島田娘ノ頭を経て歩こうと思ったのだそうだ。何という痛快な回答、何と自由で楽しい登山をする人だろうと二人して心から感心してしまったのだった。そしてこの女性と一緒にベランダであの絶景を見た時の感動を共有出来た事がとても嬉しい思い出となった。
何時もの様にS脇号で中央道の駒ケ根ICを経て池山林道へと入り狭い林道を登って行くと行き止まりに空木岳への登山口があった。
狭い駐車場には既に数台止まっていてその反対側に車を止めて出発の準備に取り掛かった。
風情がある登山口の標識。この時点で標高1365mという事だから約1500mほど登る事になる。
登り始めは歩き易いなだらかな林間を行く。
木の枝にはサルオガセが垂れ下がっていて夜見たら怖そうだ。
直ぐに水場が現れた。今日はとても暑いので正にオアシス、この水はとても美味しかった。
水場で暫く休憩すると元気が出た。
また歩き始めると傾斜が緩んでとても気持ちがいい林間コースになった。
しかしその後いきなり険しい鎖場が現れたりして険しい登りが暫く続いた。
やがて空木平の避難小屋への分岐に到着。ここは真っ直ぐ空木岳へと向かう。
瑞々しい色をしたシラビソの葉と実がとても綺麗。この色を見ると夏を感じる。
尾根に出ると前方に大岩が見えた。地図を見ると駒石というらしい。
ハイマツの中に隠れる様に沢山の石楠花の木がある。また春に来れたら綺麗だろうな。
駒石付近まで登ると大小さまざまな形をした岩に囲まれた山頂とそのすぐ下に駒峰ヒュッテらしい建物も見え始めた。もう一息だ。
右側に伸びる壮大な尾根の先には宝剣岳と思われる特徴的なピークが見えた。
駒石に到着。かなり大きい。正面からは登りにくいが、横の小さな岩を伝うと思いの他簡単に登れたので暫く遊んでみた。
こんな岩遊びを始めるとクライミングの虫が騒ぐ。失われた登山歴30年が恨めしくもあるが、そのお陰で命があるのかも知れない。
少し登った所から駒石を振り返る。
岩の上にチョコンと止まっていたイワヒバリ。上手く撮ってねって言われた様な(^^♪
ヒュッテで宿泊の手続きをした後、早速空木岳に登ってみる。いろいろな形の花崗岩が林立しているのが特徴的な山だった。
ヒュッテからは目と鼻の先、眼下には駒ケ根の街並みが見える素晴らしいロケーションである。
山頂から南側には南駒ケ岳方面に尾根が伸びていたが大半雲に覆われていて展望はない。
暫く山頂で過ごして満足すると小屋へ戻りビールや腹ごしらえ。至福のひと時である。
休んでいると山頂から赤い服を着た一人の女性が降りてきた。千畳敷カールから縦走してきたと聞いてびっくり、気さくな人で暫く色々と話をしたり一緒に景色を眺めたりする。小屋には数人の登山者が泊まる様子だったが定員には程遠くかなり快適に過ごせそうである。
夕方が迫るともくもくと雲が湧き始める。西の空にはクマのプーさんが浮かんでいるのが見える。
雲の動きが激しくなり時折北に延びる尾根が現れて宝剣岳や木曽駒ヶ岳方面が良く見えた。
それにしても彼女はこの壮大な尾根を良く縦走してきたものだ。しかしこの景色を見ていると、私も何時か挑戦してみたいと思った。
西の空では雲の隙間から薄赤色の夕日が差して、その下の山々だけが夕やけ色に染まっていて神々しく見えた。
素敵なヒュッテのベランダで写真を撮りまくるS脇君と田島娘さん。
いよいよ夕暮れが迫ると見える景色全てが朱色に染まった。
今夜、駒峰ヒュッテの滞在者はそれぞれの場所でこの素晴らしい夕景を楽しんでいる。
木曽駒ヶ岳方面の雲もすっかり取れて晴れて来ていた。
すっかり暮れた頃、眼下の町の灯が綺麗に見えた。しかしそのすぐ北側の山の上では雲の間に稲光が走っていて何とも不思議な景色だ。
翌朝、日の出前の南アルプスの上が朱色に染まった。両アルプス間にはモクモクとした雲海がまるで荒波の様だ。
よく見ると富士山がチョコンと顔を出している。
木曽駒ヶ岳への山々と遠くに乗鞍岳の姿も見えた。
東の空から日が昇る。幾度となく見てきた日の出風景だが、違った山から見るたびにまた違う感動を覚えてしまう。
振り返ると空木岳が真っ赤に染まっていた。
そして尾根の向こう側では御嶽山にも日があたり始めていた。そのずっと向こうに見える山並みは白山?だろうか。
小屋のサンダルで少し登って見ると駒ケ岳の右に北アルプスの山並みがはっきり見えた。
きっとあちらの山からもこちらが良く見えているのだろう。
すっかり日が出た頃、朝食を済ませて出発する。田島娘さんは下山するとの事でここでお別れしたが、何時か何処かの山で再会出来る事を願って小屋を後にする。
再び空木岳の山頂へ。
山頂からは流石に槍穂高連峰がクッキリと見渡せた。今日も良い天気だ。
いよいよ南駒ケ岳へ向かう。
赤椰岳を見上げて、う~んなかなかいい尾根道が続くな~とS脇君。
暫く行くと、左下の小さな窪地に立つ擂鉢窪小屋が見えた。
すぐに南駒ケ岳山頂に到着。流石に人影もなく静かな山頂で記念写真を撮る。
更に南側には越百山と思しきピークとコル状の地形に越百小屋らしい赤い屋根が見えた。
ずっと以前、何時か訪ねてみたいと思っていた小屋だ。
振り返ると中央アルプスの名峰群が連なって見えた。
今日はここまで、南駒ケ岳を後にして歩いてきた道を戻る。
駒峰ヒュッテ手前を右に逸れて空木平へと進むとやがて空木岳避難小屋に着いた。
この小屋は何かが出る事で有名らしいが、昨日ここを目指していた若者の姿はもうなかったが昨夜はどうだったのだろう。
下山に使った空木平には小さな小川が流れていて周辺はとても良いお花畑が続いていた。
再び昨日登ってきた鎖場を降りた。この険しい道もまた楽しい。
登るのが大変だろうと思っていた空木岳だったが、素晴らしい駒峰ヒュッテでの展望や田島娘さんとの出会い、南駒ケ岳へ続く雄大な稜線歩きなどとても思い出に残る良い山行となった。
何時かまた訪れたい山。そして今度は越百山方面へも足を伸ばしてみるのも良いかも知れない。