屋久島 篠突く雨の森を歩く
2011年10月13-16日 屋久島 篠突く雨の森を歩く
篠突く様な雨の中、I君と屋久島の山を縦走してきた
登山当日の天気があまりにも悪く、急遽ルートを変更する事になったのだが・・・・
スキー仲間のI君から秋に屋久島へ行かないかと誘いが来たのは、確か7月末頃だったろうか
休みが取れるかどうか心配もあったのだが、折角のお誘いだし
何時か訪れたい場所でもあったので二つ返事で快諾したのだった
最近では早割りと称する事前予約の激安チケットが充実している
2ヶ月前の予約で、羽田~鹿児島間のチケットが9800円と
東京-仙台間の新幹線代よりかなり安かったのには驚いた
I君によれば、WEBのバーゲンでは日によって5000円と言う激安チケットも出るらしい
我々の立てた計画は、テント2泊、ビジネスホテル1泊の3泊4日で
宮之浦岳を中心として屋久島の主要ルートを南北に縦走するというものだった
1日目:安房港より屋久島入り、番屋峰キャンプ場 テント泊
2日目:淀川登山口~宮之浦岳登頂~高塚小屋まで縦走 テント泊
3日目:高塚小屋~白谷雲水峡~宮之浦港に下山 ビジネスホテル宿泊
4日目:宮之浦港から逆コースをのんびり帰る
しかし、実際2人を待っていたのは厳しい屋久島の天候だった
<1日目>晴れのち曇り ほぼ無風
羽田空港(9:05)~鹿児島空港(11:00)~(バス)~鹿児島中央駅(11:40)~(市電)~いづろ通(12:30)~(徒歩、昼食)~鹿児島港(15:30)~(高速船)~屋久島 安房港(17:30)~徒歩5分~番屋峰キャンプ場泊
埼玉の当日の朝は晴れ
屋久島の天気予報では明日は曇り時々雨、明後日が晴れのち曇りとなっていた
出発時の荷物はテント泊装備だから水なしでも14Kg程度となった
これ以上だと航空運賃の追加料金が発生するし、機内に持ち込めないガスボンベも置いていく
何時もの出勤時間よりは早く出たものの、大きな荷物を背負ってやや遠慮気味に電車に乗った
空港に着くとI君が待っていて直ぐにチェックイン
久しぶりの空の旅は快適だった
鹿児島空港に降り立つと、何となく暑くて湿気を帯びた空気を感じた
ほのかな南国の雰囲気が漂ってきて、気持ちもウキウキする
空港の外にはバスやタクシー、送迎マイクロバスなどが引切り無しに発着していて
大きな旅行かばんやリュックを背負った人々で賑わっていた
バスの自動販売機で切符を買うと直ぐに鹿児島中央駅行きのバスが来た
高速道路を暫く走ると鹿児島市内に入る
市内はかなり交通量が多くて渋滞ぎみである
鹿児島中央駅に到着すると、とても大きな駅で
驚いたことに屋上に観覧車がある・・・呆然として暫し見上げてしまった
港に行く前にガスボンベを調達しなければならない
駅前から市電に乗って予め調べてあった「好日山荘」へと向かう
どこか懐かしい市電が走っていた
暫く市内を走ると目的の「いづろ通」に到着
しかし、好日山荘が入っているビルが分からない
道の角に居たオジサンに聞いたのだが、首を傾げるばかりで要領を得ない
話をしている内に、通りかかったおばさんが道を教えてくれたのでとても助かった
結局このあばさんはビルの近くまで一緒について行ってくれたのだ
鹿児島の人って、なんて親切なんだろう!
無事ガスボンベを購入したし、時間があるので港まで歩く事にする
途中、昼食を食べたり道に迷いながらも港に着くと
正面に、でっかい「桜島」が出迎えてくれた
港から見た桜島
時速80Kmも出る高速艇で外海へと向かう
やがて大きな屋久島が見えた
しかし、既に山の上には暗雲が立ちこめ始めていた
この時、ふと明日の天気が気がかりになったのだが・・・・
安房港に到着
番屋峰キャンプ場は港から5分もかからない海岸沿いにあった
ここは芝生の上にテントが張れる極楽テント場だった
風もなく、すぐ目の前の海の音しか聞こえない
海辺に張ったテント
キャンプ場前はさながらプライベートビーチのよう
長旅だったが、穏やかな1日が終わった
I君と祝杯をあげて夕食を食べた
夜、ラジオで明日の天気予報を確認すると、残念な事に朝から終日雨に変わっていた
しかも山は10mを越える強風を伴う事が分かったのだ
こうなったら宮之浦岳を通過する稜線歩きは避けた方が賢明だろう
急遽コースを逆にして森林を登るコースへと変更し
新高塚小屋に泊まって3日目の天候次第で下山ルートを変える事にした
最悪3日目も荒れ模様なら、縦走を諦めて森林ルートを戻れば良いのだから
<2日目>終日雨、夜は雷を伴う豪雨
番屋峰キャンプ場(5:00)~(タクシー)~荒川登山口(6:00)~小杉谷集落跡~楠川分岐~大株歩道入口~ウイルソン株(9:30)~大王杉(10:20)~夫婦杉~縄文杉(11:10)~高塚小屋(11:40)~新高塚小屋(12:40)泊
朝4時起床、幸い雨は降っていない
穏やかな波の音でぐっすり眠れたが 直ぐには目が覚めない
テントを畳んで、暗いベンチで朝食を済ませると
直ぐに予約していたタクシーが来た
運転手さんも登山をする人らしく、今日の天気予報ならコース変更が妥当だと言う
また当初の下山コースであった白谷雲水峡へのルートは
途中渡渉箇所があり雨の降る量によっては渡渉出来ない事があるとのこと
もし渡渉出来ず荒川登山口へ戻る可能性があるなら、
十分な時間的な余裕を見るべきとの貴重なアドバイスを貰った
まだ雨は降っていないが荒川分岐を右折して荒川登山口(森林コース)へと向かった
荒川登山口に着くと、トイレや休憩所があり
既にマイクロバスが沢山着いていて、これから登るツアー客でごった返していた
流石に人気の縄文杉コースとは言え、平日の悪天候の日とは思えない盛況ぶりである
タクシーの運転手さんの話では、今居る大多数の人は
縄文杉又は途中までで返ってくる日帰り観光者だと言っていた
我々も準備を整えて
いざ出発というその時
遂に、冷たい非情な雨が落ちてきた
トンネルを抜けて出発する
トロッコの線路の上を行く
雨のトロッコ道をいくI君
大王杉 湿気でカメラが曇ってしまう
このコースは渓流沿いにあり、何度も橋を渡る
ウイルソン株の中から上を見上げる
大きな杉が倒れていた
大杉の横を回りこんで
この大杉でさえ、名前が付いていないのだから驚きだ
夫婦杉の前で記念撮影
大きくりっぱな根っこ
縄文杉
縄文杉を過ぎると途端に人が減って静かな登山道となる
10分も歩くと高塚小屋に着いた
最初泊まる予定だった高塚小屋の入口付近
小屋は小さく、内部は床2段になっているが数人寝るのがやっとの広さだ
テント場は、見た限りでは2~3張りがせいぜいだろうと思われた
我々は明日の天気の変化によっては淀川方面への縦走も視野に入れ、
新高塚小屋まで行っておく事にした
静かになった道を1時間ほど登ると新高塚小屋に着いた
小屋の入口ですれ違ったご夫婦の話では
我々の当初計画と同し、淀川から宮之浦岳を縦走するコースを歩いてきたところ
稜線の風雨が激しくて、飛ばされない様に笹や岩を掴んだり屈んだりしながら漸く辿り着いたとのことだった
今日は時折日差しが差したり、風を伴った強い雨が降ったりと変化が激しかったものの
我々は、屋久杉の深い森のお蔭で幸いにも無事に登ってこられた事に感謝した
―― 新高塚小屋での出来事 ――
苔むした色をしている新高塚小屋は、森の中にひっそりと立っていた
なかなか広い非難小屋で、定員は不明だが少なくとも30人位は宿泊可能だろう
水場やバイオトイレも小屋のすぐ近くにあり便利だ
小屋の中に入ると、単独の人と2人組がマットの上に荷物を広げて寛いでいる
挨拶を終えると我々も早速マットをひいたり、濡れた衣服を壁に吊るしたりした
2人とも下着が湿ってしまいとても寒かった
I君は着たまま乾かすと言ってシュラフに包まったが、私は予備の下着に着替えた
その後、夕食を食べたりお茶を飲んだら漸く暖かくなったので助かった
その後2時間程の間にポツポツと人が増えて最後には12~13人程になった
それでも2畳に1人位だから、ゆったり出来る
やがて夜になると、外は豪雨になり雷が鳴り始めた
私はトイレに行きそびれて我慢していたが、
雷雨は益々激しくなり、耳が痛くなるほどの雷鳴が轟いた
I君の持参したローソクが揺らめき、外では暴風雨の音と雷鳴が鳴り響く
完全に行きそびれた私は、暖かいシュラフの中でうつらうつらしていた
2時間程も経った頃だろうか、時折外の風の音が止む瞬間がある事に気付くと
すかさずヘッドランプを付けて静かに小屋を抜け出した
トイレに向かう途中の闇の中で
私は獣の気配を感じて一瞬足が止まった
ヘッデンを向けると数mほど離れたところにバンビ位の小鹿が立っていたのだ
鹿もこちらを見ているが動こうとはしない
道の脇に居たので、ゆっくり2m程まで近づくと静かに闇の中に消えていった
屋久島の森の妖精に出会った様な気がした
もう一つ、その日の小屋で小さな出来事があった
皆が寝静まった頃、私の寝床の脇にある荷物辺りからガサゴソと音がする
飛び起きてランプを向けると何も居ない
寝ると、またガサゴソ、ガサゴソ
他の人も、時々飛び起きてランプを点けるが何も発見されない様子だった
何度か繰り返している内に隣りのI君が飛び起きてランプをザックに向けたとき
漸く、ランプの光の下に犯人の姿が見えた
予想してはいたが、やはり犯人はハツカネズミだった
少し白っぽい、手の上に乗せられそうな小さな小ねずみが走り回っていたのだ
この騒ぎで小屋の中じゅうの人が起きて、食べ物をザックの中にしっかり仕舞い直した
I君が蝋燭の小さなランプを点けておいてくれると言うので
そのあとは安心して寝てしまったのだが
翌朝、私の食料は無事だったが、I君のパンが齧られていた
他愛もない山小屋での出来事だったが、忘れられない思い出になった
<3日目>雨が降ったり止んだり
今日は風は弱まったものの、朝から小糠雨が降っていた
それは霧のように細かくて、空中に長く留まってねっとり肌に纏わりついてくる
天気予報によると、どうやら今日も雨らしいが風は穏やかとのことだ
我々は天気が良くない中、縦走するか又は白谷雲水峡方面に下山か、
来た道を荒川側に下山するかの何れかの選択について話し合った
白谷雲水峡は苔むす森林で人気のあるルートだし、行ってみたかったが
運転手さんのアドバイス通り、昨日の雨で増水している可能性が大きい
時間的にはどのコースでもほぼ同じだし、
風が収まれば縦走は可能と考えて、縦走ルートを選んだ
3日目のコースと時間
新高塚小屋(6:15)~第一展望台(7:05)~平石展望台(8:10)~宮之浦岳(9:05)~黒味岳分岐~花之江河(11:30)~淀川小屋(12:30)~淀川登山口(13:00)~タクシーで宮之浦へ
朝靄の新高塚小屋
霧雨でけむる
稜線からチラッと見えた山並み
奇岩
この屋久島は全体が石で出来た島の上に大きな木が沢山生えているという印象だった
だから木々や植物の根っこが、通常より長く地面を這っている気がする
何れにしても山の風景は他にはない独特の雰囲気を醸し出していた
これが屋久鹿だろうか
竹やぶの中にいた小鹿
昨夜出合ったのはこの鹿かもしれない
元気良く稜線を歩くI君
平石で休憩する
2つの大岩
宮之浦岳の頂上に到着
この後、屋久島独特の植物や沢、大岩などを見ながらの縦走が続いたのだが
雨足が強くなり、残念ながら雨で手持ちのカメラが壊れてしまった
もう一台持参していたが、これも壊れる恐れがあり写真が撮れなくなった
晴れていれば、宮之浦岳から淀川登山口までの縦走路は変化に富んでいて
こは屋久島の素晴らしいルートだと思った
雨時の岩や根っこは滑りやすく、ようやく淀川小屋に着く頃には二人とも疲れ果てていた
小屋で小休止していると、下から登ってきた数人のグループと石塚小屋から下山中の2人組と
一緒になったのだが、この雨の中をこれから登ろうとする人たちがいる事に驚いた
彼らは九州から来た男性2名女性数名の大所帯で、大変賑やかな人たちだった
何度も来ているらしく、季節毎の山や花の状況や下山後の交通などの情報を教えて貰った
彼らは明日の晴天が約束されているので、大雨の中新高塚小屋まで行って泊まるとのこと
羨ましい程の逞しさに関心させられながら、お礼を言って分かれた
登山口まで下山し、更に紀元杉を過ぎてヤクスギランドに向かう途中にバス停があったが
雨の中を何時間も待つ必要があった
幸い奇跡的にI君のAU携帯の電波が繋がったのでタクシーを呼ぶことができた
タクシーが来ると、
ずぶ濡れのまま車に乗り込んだ
運転手さんに宮之浦に登った話をしたら
屋久島の周囲にはぐるっと道路があるのだが、
道の何処からも宮之浦岳を見ることは出来ないそうだ
だから、宮之浦岳を見るには海に出る船から見るしかないと教えてくれた
更に、明日は屋久島全体の大運動会の日だから、きっと晴れると言う ・・・ 悔しい一言
その他、屋久島の歴史や花の名前など、色々聞きながら宮之浦の宿に向かった
我々は二人ともぬれ鼠だったが、不思議に満足した気持ちで
縦走がいかに大変だったかを笑いながら運転手さんに話した
そして今度来るなら、
屋久島の運動会の開催日を確認してから来る事を宣言したのだった
この民宿経営のビジネスホテルに宿泊
宮之浦港
素晴らしい姿の開聞岳
桜島
鹿児島空港での夕日
最終日は運転手さんの予言通り、悔しいほど晴れていた
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