大雪山~トムラウシ山 遥かなる大地をゆく(その2)
2日目は晴天に恵まれた事もあって順調に進み、午前中にヒサゴ沼に到着できたのはラッキーだった。
18Kgもあるテント装備から軽量なサブザックに替えて歩き始めると、まるで何も背負っていないかの様に足取りも軽くなった。
これなら夕方までにトムラウシ山を往復できそうだ。
<大まかな行程>
7月7日 : 羽田→旭川空港→旭岳登山口(いで湯号)、旭岳ロープウエイ姿見駅~旭岳~北海岳~白雲岳避難小屋(泊)
7月8日 : 白雲岳避難小屋~忠別岳~五色岳~化雲岳~ヒサゴ沼~トムラウシ山~ヒサゴ沼(泊)
7月9日 : ヒサゴ沼~化雲岳~第一公園~天人峡温泉(泊)
7月10日: 天人峡→旭川駅(送迎バス)→上富良野駅(JR)→吹上温泉(バス)(泊)(食料調達&移動日)
7月11日: 吹上温泉登山口~十勝岳往復
7月12日: 吹上温泉→十勝岳温泉登山口(バス)~上富良野岳~富良野岳~登山口→吹上温泉(バス)
7月13日: 吹上温泉→上富良野駅→旭川駅(JR)→札幌(高速バス)→新千歳空港(JR)→羽田
ヒサゴ沼まで落込んだ危い雪渓の端を歩いて行くと、目の前に大きな雪渓が立ちはだかった。
雪渓は何とかアイゼンを使用しなくても登れたものの、思いの外傾斜がきつく少し緊張させられた。
早朝などに登るとしたらアイゼンが必要かも知れない。
暫くすると天沼と思われる沼が現れた。水の透明度は高く澄んでいた。
足元には沢山の可愛いチングルマが群生していて、ここでも私の気持ちを後押ししてくれる。
今度は前方にロックガーデンと思われる岩場が立ちはだかる。ここは焦らず慎重に進んだ。
何とかピークを越えると前方に北沼が見えた。その先はいよいよトムラウシ山である。
岩稜地帯に現れた雪渓と青い水の色が何とも美しい風景を造っていた。
花が咲く沼の縁の道に沿って進むとトムラウシを迂回するルートとなる。
しかしあまり風は吹いていないのに水面は波立っていて、荒れた時には歩きたくない場所である。
遂にトムラウシ山頂に着いた。誰も居ない山頂を独り占めである。
夕方だと言うのに雲に遮られる事無く遥か向こうには美しい大雪山が見えた。一番左の最も高い山が出発した旭岳である。
晴天に後押しされたとはいえ、2日間であの旭岳からここまで歩いてきた事を思うと感慨深いものがあった。
南西の方角を見るとオプシタテ山から美瑛岳、十勝岳、富良野岳などがクッキリ見える。
一番左側に少し離れた山は下ホロカメットク山だろうか、三角錐のシルエットが綺麗だった。
こちらは西側の山並み。恐らく遠方に美瑛町や旭川の街並みが見えているのだろうが霞んでいて分からなかった。
東側には大きな山並みが見えている。石狩岳や川上岳などだろうが同定はできなかった。
右奥の山はニペソツ山だろうか。
晴天の中、こんなに素晴らしい360度のパノラマの景色を堪能出来る事は最高の幸せである。
山頂からの風景をビデオ撮影してみた(風切音が大きいので要注意!)
何時までも見ていたい景色だが夕暮れまでにはヒサゴ沼まで帰らなければならない。
後ろ髪を引かれる思いで山頂を後にした。
下山途中、眼下に大雪山をバックにした北沼の美しい風景に思わず見惚れた。
この後ロックガーデンを下ってしまえば、もうこの美しい北沼の風景は見られなくなる。
やがて向こうに明日の下山ルートとなる化雲岳が見え始め、延々と続く木道が美しい。
ヒサゴ沼のテント場にはまだ北大と私のテント以外のテントは見えない。
後はこの雪渓を下れば、今日の超ロングトレッキングの完了である。
テント場に着いてみると横に一張のテントが張られていた。
挨拶すると20代と思われる若い人だった。同じく白雲岳避難小屋から縦走してきて明日トムラウシへ登るらしい。
避難小屋を覗くと、やはり白雲岳避難小屋から縦走してきた数人の男女のグループが宿泊していた。
話を聞くと、明日トムラウシ山登頂後、新得側へ下山するらしい。
どうやら天人峡へ下山するのは私だけの様だった。
通常、このルートを縦走する場合、トムラウシ山から新得側へ下山する人が多いと思われる。
しかし私の場合は、このあと十勝、富良野岳を登る予定があるので旭川側に下山する必要があるのだ。
この日の夜、夜空には天の川を始め無数の星が輝いていた。
テントのジップを開けて寝そべったまま星を見ていると、まるで現実の世界から遠く離れた宇宙空間に漂っている様な不思議な感じがした。
夢のような星空を眺めていると、疲れていたせいもあって次第に意識が遠のいていつの間にか本当の夢の世界に入ってしまった様だ。
翌朝、ヒサゴ沼に朝日が当たる頃、ようやく目覚めた。今日も雲一つない素晴らしい天気だ。
今日は下山するだけなのでのんびり朝食をとってから徐に下山を開始した。
来た時に降りた大きな雪渓を登って振り返ると、相変わらず真っ青なヒサゴ沼が美しかった。
こんなところで1日過ごせた事を本当にラッキーだと思った。
更に登ると、ヒサゴ沼の後ろには昨日登ったトムラウシ山が顔を出していた。
化雲岳からは今日も相変わらず美しい大雪山が見える。
ここは電波の入りも良い為、天人峡温泉へ電話して今夜の宿泊予約を入れておいた。運よく部屋は空いていた。
天人峡への下山路を歩き始めると、左側にはトムラウシ山、右側には大雪山が見えるという展望に恵まれた尾根なのだと分かった。
こちらはヒサゴ沼へ続く木道。どの風景も絵になる景色ばかりである。
小化雲岳の近くまで来ると、道の両側にはお花畑が広がっていた。
左側の丸いピークは小化雲岳、道は右側をトラバースする様に続く。
やがて道は密集したハイマツ帯へと進む。
煩そうなハイマツだが刈ばらいされていて大きな支障はない。
ちょっと開けた場所に来るとコマクサの群落があった。この辺が第二公園だろうか。
標高1300m程の所にある第一公園まで来ると木道脇にチングルマの大群落が出迎えてくれた。
こちらはワタスゲの群落。
この辺りは尾瀬の様な綺麗な木道が続いていて、正面には大雪山が迫ってくるという最高のロケーションだ。
更に標高を下げたころ、谷間の向こうには大きな滝(羽衣の滝)が見え始めた。
名瀑100選に選ばれているだけあってとても綺麗だった。
天人峡温泉に到着。鄙びた温泉を想像していたのに思っていたより大きな宿でびっくりした。
この日、とうとう全長55Kmに及ぶ遥かなる大地をゆく縦走を完遂したのだ。
晴天に恵まれて多くの花々と雄大な景色の中、黙々と一人で歩き通した充実感は例えようもなく大きく大満足だった。
疲労も大きかったが、最後は天人峡での源泉掛け流しの温泉ですっかり疲れを癒すことが出来た。
予報より早く雨が降り出して、この日の夕方には山の上の空は真っ黒となっていた。
翌朝は大雨の中、宿の送迎バスで旭川駅まで送ってもらい駅周辺で食料品や酒類を買い込んで上富良野から吹上温泉まで移動した。
いよいよ思い出の地、十勝岳と花の百名山、富良野岳登山の始まりである。
「大雪山~トムラウシ山 遥かなる大地をゆく(その1)」はこちら
「十勝岳 遥かなる大地をゆく(その3)」はこちら
「富良野岳 遥かなる大地をゆく(その4)」はこちら
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