丹沢 結氷の早戸大滝
2011年1月15日 丹沢 結氷の早戸大滝 同行者:S脇君
今週末の天気予報は冬型の気圧配置が強まって全国的に天気が悪く、特に日本海側と北日本では大雪の予報が続いていた
関東の太平洋側だけは好天の予報だが高地は強風が予想された
そんな中、S脇君がお正月に渡渉が出来ず断念したという早戸大滝のことを思い出してリベンジしてはどうかと誘ったところ即OKとの返事だったので急遽出かける事になった
「早戸大滝」は丹沢の主脈から宮ヶ瀬湖へと流れ込む早戸川の源流付近にある落差約50m程の滝で、別名「幻の大滝」とも言われ日本の滝100選にも選ばれている名瀑らしいが、我々は訪れた事が無く初めての山行となった
S脇君の計画では大滝を見た後、主脈稜線に登って雷滝へ下山する周回するルートを取る予定だったのだが、のっけから想定外の事が重なり滝めぐりだけで時間切れとなった
両滝とも稜線間近まで源流を遡ったところにあるだけあって思った以上に時間がかかってしまったが、半分以上凍結したその美しい姿を見た時はとても感動的だった
丹沢はその語源からも沢の多い山と呼ばれるくらいだから、まだまだ我々が知らない沢山の美しい滝や清流があるに違いない
こんな場所を一つずつゆっくり訪ね歩くのも丹沢の楽しみ方の一つと言えるかも知れない
何時もより遅い7時半に出発、宮ヶ瀬湖を経由して9時ころ早戸川国際鱒釣り場に到着したのだが、驚いた事に鱒釣り場の上部への侵入が禁止となっていた
S脇君が正月に来た時には入れたというのだが、これでは丹沢観光センター跡地の駐車場まで1時間以上歩かなければならない
自己責任で進入してしまおうかとも考えたが、結局周回コースを諦めて大滝を見るだけで引き返そうという事になった
鱒釣り場のゲート
1時間10分程で魚止橋に到着すると、河原の石には雪が積もっていた
早戸川林道の終点を右の斜面に取り付いて漸く登山道を登り始める
30分ほど急坂を登ると廃屋があった
雰囲気が良いトラバース道の左側は50m程の谷になっている
谷に下ると、色のないモノトーンの別世界に入った気がした
問題の渡渉地点、小さな橋が架かっている
なる程、橋の上は凍っていてツルツルだった
ここで二つ目のアクシデントが・・・・
S脇君は橋を避けて長靴で浅瀬をヒョイヒョイと簡単に渡ってしまったのだが、
私はアイゼンで渡ることにしたのだが靴に付かない
そう言えばこのアイゼンと靴の組み合わせは初めてだった
見かねたS脇君が対岸から長靴を投げてくれたのだが、何と1足が川の中にボチャン・・・
あっという間に流れながら川の中に消えてしまったのだ
諦めかけたとき下流の川底にある長靴を発見、ストックを使って拾い上げ何とか事なきを得た
たった一つの不注意が次々と別の問題を生むという悪い事例となった。。。(大反省)
そこから先も川岸の壁のヘツリや巻き道、左右への渡渉が続いたが大きな問題はなかった
ただ、やたらと長い遡上が続くばかりだ
ゴロタを更に進むと川が左右に分岐した広い河原に到着、ここが雷平(大滝沢出合)らしい
分岐を左に10分ほど進むと再び沢が分かれており、見上げると、もうすぐそこに稜線が迫っている
何処かで道を間違えたか、二人とも疑問に思い始めたころ
左側の尾根沿いに付けられた道標を見つけて進むと、突然大滝が現れた
それは大きな岩に隠れていて、こんな所に、と思う場所で突然見え始めたのだ
我々はその姿に驚き、美しく凍った滝は素晴らしく思わず声を上げたほどだ
滝の上部は凡そ40m、下部は小さな10m程の2段滝になっており、殆ど凍結していた
滝の下からは水が流れ出しているので、氷の裏側は流れている様だ
左側からも滝を隠す様に大きな岩が張り出しているので全容を見るのが難しい
二人で滝の右岸の道を登ったり降りたりしながら写真を撮った
この道は不動ノ峰の北東尾根に続く大滝新道と言われていて、
登りつめれば丹沢山と鬼が岩の間の稜線に出るらしい
暫く氷の滝を楽しんだ後、遅い昼食を取る為に雷平まで下る事にした
途中水遊びした事もあって、既に約4時間が経過していた
雷平まで下ると雪も少なく岩がゴロゴロしていて昼食場所としては丁度良かった
だが今度は持ってきたコンロのガスが空だった事が分かりS脇君に借りたのだった
コンロを炊いて暖かい昼食を食べていると、そこで不思議な人たちと出会った
何処から現れたのか、気がつくと背後に3人の登山者が立っており
1人は女性で3人共かなり年季がいった装備や身なりをした人たちである
登山靴は昔風の皮製、ザックも色あせていて如何にも山慣れした感じが伝わってくる
S脇君が挨拶がてら聞いたところ、
どうやら先程の大滝新道から蛭ヶ岳まで登ったあと雷滝に沿って市原新道を下ってきたらしい
私は話を聞きながら無言のままリーダー格らしき人と目を合わせると、優しい微笑みが返ってきた
その時、何だかとても懐かしい人に再会した様な気がした
挨拶を済ませると彼らは暫く私たちのすぐ近くの岩の上で休んでいた
彼らはカッターシャツの上にはジャケットを着ていなかった、
今日は風が無いのでそれ程寒くはないが、雪が降るこの時期としてはかなり薄着だと思った
我々が食後のコーヒーを飲み終わった頃、ふと気がつくと彼らの姿が見えない
あれっ、と思い目で探すと既に遠くの木々の間を整列して去っていく姿が見えた
その素早い行動と安定した歩き方を見て、改めてベテランの登山者という感じを抱いた
次に来る時には彼らの様に蛭ヶ岳への周回コースを歩きたいなどと話し合った
この河原では、凍った石と渓流の流れが美しい景観を創っている
エイリアンが水を飲んでいる様な画
高速シャッターで流れの瞬間を撮って見ると、現実の世界の時間も止まった様な錯覚を覚えた
今日は一日中曇っていて風も無く静かだ
異次元の世界の様なモノトーンの景色が時間の感覚さえおかしくする
この後、せっかく来たのだからと雷滝を見に出かけた
雷滝は雷平の分岐を右に10分ほど遡上した左側にあった
滝の右岸を登って撮影した
滝の正面にて
落差はそれ程ではないが幅が大きく、こちらも見応えのある滝だ
帰りは大きな問題もなく順調に進んだ
計算では、鱒釣り場着が日没の5時近くなるので急がねばならない
予定通り4時頃には林道終点に到着、後は1時間林道を下るだけだ
二人並んで長い林道を歩きながら、私は思った
さっきの3人組みは何だか昭和の時代から甦った人たちの様な気がする
***私が登山を始めた頃
それは17歳の冬、高校の登山部のテント合宿で丹沢に来た時のことだ
小田急線渋沢駅からバスに乗って何処かの停留所で下車、炊飯用の蒔きを買い込みながら山道に入った
新入部員の自分は背中にテントやら毛布やらを沢山背負って歩いていた
やがてテント場に到着すると、最初はテント張り、その次は炊飯と食事つくりをした
テントを張るのにも小一時間かかった気がするが、最悪だったのが炊飯だ、
蒔きの火力が不十分で酷く芯が残った
しかし、先輩やOBは笑いながら芯があるけど美味いと言って食べてくれた
勿論、文句は誰にも言えないのだが、自分は不味くて仕方なかった
夜、テントで寝る時には枕が無いのでポリタンを枕にしたのだが、これが間違いだった
水漏れして背が濡れてしまい一晩中寒くて眠れなかった
それでも翌日は早朝に起き出して又炊飯を始めた、装備をぬらした事で酷く怒られたが
結局先輩は山での事を色々教えてくれた、その時の優しい目が忘れられない***
さっき山で会った3人組のリーダーの目は、その時の先輩の目と同じだった
単に今日の自分は色々失敗を犯したから、昔の事を思い出しただけかも知れない
または3人組が如何にも山慣れした昔の格好だったせいで、思い出とダブっただけかも知れない
あれから随分時間が経って、登山を再開したのだが
自分の登山の原点はあの頃の経験にある
尊敬するその登山家たちはいまどうしていることだろう
そんな事を考えながら歩いていたら、いつの間にか夕暮れと共に車にたどり着いていた